ミッドナイト革命

「あ、あらふねだぁ~」
「……これはどういうことっすか、諏訪さん」
「悪かったって、んな睨むなよ」

 任務後の訓練もそこそこに切り上げ、帰ろうとしたときに諏訪さんから「今お前どこいる?」と電話が来た。本部でちょうど帰ろうとしていたところだと伝えると、諏訪隊の作戦室へ来いと言われて来てみれば、顔を真っ赤にしてまるで酔っ払いのようなーー否、酔っ払いのがいた。

がさぁ、お酒ってどんな味するのって聞いてくっからちょっと飲ませてやったらすぐ酔っちまってよ」
「未成年すよ、コイツ」
「ちょっとくれぇいーじゃねーか。頭のかてぇ奴だな」
「ごめんな荒船、俺も一応止めたんだけど……」
「や、堤さんは悪くないすよ」

 話を聞くと、諏訪隊のオペレーター、小佐野に用のあったが諏訪隊の作戦室へと訪れたわけだが、いたのは諏訪と堤の二人のみで、しかも飲んでいるところだった。興味本位でひとくち飲ませてとねだったは、堤が止めたのを無視して少し飲んだものの、途端に顔を真っ赤にして酔ってしまったそうだ。どうやらはお酒に弱いらしい。

「おまえ、と家近かったろ。送ってってやんね?」
「そういうことっすか。……おら、起きろ。帰んぞ」
「ええ~」

 やだぁ、まだ飲む~。と駄々をこねるだったが、既にへろへろでお酒を飲もうとする手すらおぼつかない。俺は小さくため息をつくと無理やり両手を自身の肩の前に持って来させ、おぶった。んん、とが唸る。

「じゃ、俺は帰りますんで。失礼します。」
「おう、わりいな。」

△▽△


「あらふね、はなして~わたしはまだのむの~! ちゅーはい、ってやついっぱいのみたいのぉ」
「お前、自分の格好忘れたのか? 制服姿でんなこと言ってると捕まるぞ」
「だいじょーぶ、ボーダーだからつかまらないも~ん」
「ボーダーだからって捕まらないわけねーだろ、いい加減酔い覚ませ」

 夜道をバタバタと暴れるを背負いながら歩いて行く。しゃべりながら吐かれる息はアルコール臭い。こんな姿警察に見られたら完全に逮捕される。もし本当にそうなったら根付さんあたりが面倒そうだ。はにへへ、と変な笑い方をしながら俺の首に顔をうずめる。

「あらふね、なんかいいにおいする。なんで?」
「はあ? 別になんもしてねーけど」
「このにおい、すきだな~。あんしんする……」

 すん、と匂いを嗅がれむず痒い。さっきまでお酒お酒と暴れていたのに、今は落ち着いて俺の背中に身を委ねている。酔っ払いは何考えてんのかわかんねーな、と思っていたらがぶりと噛み付かれた。もちろん、俺の首に顔をうずめてるに、である。

「いって!? 何しやがる!」
「なんかおいしそーだったというか、いいにおいだったからというか……うーん、なんでだろーね?」
「てめぇは理由もなく他人の首に噛み付けんのか……」

 もはや怒りすら湧いてこない。なんなんだ、こいつは。いつも俺を振り回しているが、酒が入るとその倍くらい酷い。激しく面倒くさい。さっさと家まで送り届けるか、と改めてを背負い直したところでこいつはとんでもない爆弾を投下した。

「あ、わかったぁ。わたしがあらふねのことすきだからだぁ」
「……は?」
「だからこんなにもあらふねのにおいにあんしんしたり、かみつきたくなるような肌にみえたりするのかな~」

 んふふ、とテストの答えがわかって喜ぶような笑い方をする。その一方で、俺は思わず足を止め、口をあんぐりと開けてしまった。が、俺を好き? 俺が好きって、恋愛感情でか? こいつは好きな相手に噛み付きたくなる性癖なのか? わけがわからず、ぐるぐるとの先ほどの言葉を反芻する。いつもの冗談? でもコイツ酔っ払ってるし、本音がポロって出てしまったのか? ただただ混乱して、そして何故か、心臓がドックンドックンと高鳴っていて。
 そんな俺の考えも知らないは、すりすりと俺の身体に頬ずりをする。そして、途端にう、と苦しげな声を漏らした。

「やばいあらふね……ぎもぢわるい…吐きそ……うぷ」
「はっ!? ちょ、待て! 近くに公衆便所あるから! それまで耐えろここで吐くな!!」

 俺が全速力で走り、公衆便所にたどり着くまで45秒。が公衆便所に全て戻してしまうまで1分半。そのままぐったりと半分気絶してしまったを家まで送り届けるまで15分。全てを覚えていたが俺に全力で謝るまであと半日。俺がへの気持ちに自覚し、「俺も同じ気持ち」だと伝えられるまで、あと何日?


title リラン

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