それは神のみぞ知るこころ

「オイオイ、これはどういう状況だ?」

 海はいつも通り朗らかに笑った。私はその反応にいつも通りむかついた。これだから海は嫌いなのだ。
 今、私と海の状況を一言で表すとしたら私が海を押し倒している、である。海が私を、ではなく私が海を。海の部屋で、海のベッドに、私は海自身を押し倒していた。

、イタズラにもほどがあるぞ~?」
「そうやって、」
「ん?」

 そうやって、海はいつも私を子供扱いする。私がどんなに大人だと、もう子供ではないと主張しても。ずっとずっと子供扱い。そんなの私は嫌なのに。私は、海と同じ立ち位置でいたいのに。

「…なあ、本当にどうしたんだ? なんか言ったかと思えば黙って。熱でもあるのか?」
「ねえ、海」
「お?」
「私ね、もう18なの。知ってた?」
「おお、そうだな。そういえばもう18か」

 大きくなったもんだよなぁ、と明るく笑う。そうだよ、私は大きくなったんだよ。もう大人なんだよ。どうして私の気持ちを汲み取ってくれないの、いつもは察しがいいくせに。どうしてもわかってくれない海のために私は強行手段に出ることにした。

「海」
「んー?」

 ちゅ。
 私は海のそのいつまでも口角の上がった唇に自分のものを重ねた。さすがに想定外だったのか、海は目を見開き驚いている。

「私ももう大人なの。ねえ海、」

 もう子供扱いしないで、私のこと一人の女として見て。

 そう言った時の海の表情はどんなものだったか。






 いつからだろうか、アイツがこんなにも大人になっていたのは。

 昔馴染みであるとは長い付き合いである。もう10年は経つだろうか。出会った頃のアイツは、無邪気に笑った笑顔がかわいい女の子であった。少しばかり引っ込み思案だったはいつも俺に引っ付いていて、どこに行くのにも一緒であった。そして、今も。

 ずっと一緒にいたはずのアイツは、気付けば俺の知らないうちに女の子から女へと変化していた。気付けばその仕草ひとつひとつに色っぽさが出ていて。雰囲気もすっかり変わりきっていて。アイツは気付いてないんだろうけど、俺にはそれが毒で。俺は必死に、アイツにはいつも通り接しようとしていた。昔みたいに、妹や子供扱いして。そうすることで、大人になったアイツから目をそらしていた。

 ある日、はとある行動を起こした。それは突拍子もないもので。俺を押し倒したのだ。いつもより気を抜いていたからかあっさりと押し倒され、俺の視界は嫌でもでいっぱいになった。大人になった、で。ドクンと大きく心臓が音を鳴らしたのを無視していつも通り笑った。そしたらアイツは顔をしかめさせて。

「私ね、もう18なの。知ってた?」
「おお、そうだな。そういえばもう18か」

 大きくなったもんだよなぁ、なんて誤魔化してみる。知ってたよ。お前が18で、もう大人だってこと。もう俺はお前のこと、普通の女として見てんだぜ、なんて言ったらお前はどんな顔するんだろうな。
 もう一度名前を呼ばれ、返事をすればの顔はすぐそこだった。何か言う前に唇を重ねられた。今、コイツは、何をした? 思わず目を見開く。

「私ももう大人なの。ねえ海、」

 もう子供扱いしないで、私のこと一人の女として見て。

 そう言ったアイツに、ぷつりと何かが切れた音がした。


back