心臓を型どる

「――郁くん?」

 思ったよりすんなりとその言葉は出てきた。私の言葉に、くるりと振り返る男の子は――やっぱり、思ってた通りの人物で。郁くんも、まさか私とこんなところで会えると思っていなかったのか目を見開いて驚いている。

「え、あ……ちゃん、だよね」
「うん、。すごい久しぶり……だね。こっちきてたんだ」
「あー……まあね」

 頬をぽりぽりと書きながら眉を下げて笑った郁くん。
 神無月郁くん。小学校の頃、よく遊んでた男の子。元気で明るくて、スポーツが大好きな子だった。人見知りな私を外へ連れ出して一緒に遊んでくれた優しい子だった。小学校を卒業すると同時に私は東京へ越してしまい、それ以来連絡を取っていなかったんだけど……それが、こんなところで会えるなんて。
 久しぶりに会う彼は、あまり変わってなかった。くりくりとした可愛らしい瞳に、ほわほわと跳ねた栗色の髪、男性にしては細身の体系。小学校のころからそのまま成長した感じだ。……あ、でも筋肉が少しついているように見える。スポーツでもやってるのかな。

「郁くん、変わんないね。久しぶりなのにすぐ郁くんだってわかっちゃった」
「そうかな? ……ちゃんは、変わったよね」

 え、と思わず聞き返す。自分の体に小学生の頃から変化があったとは思えない。思わず自分の身体をきょろきょろと見つめてみたけど、やはり変化なんて思い当たらない。なんて、思っていたら郁くんの右手がさらりと私の髪に触れる。突然で少しドキリと心臓が鳴った。

「変わってないところも多いけど……やっぱり、変わったよ。――綺麗で、かわいくなった」
「っえ!?」

 予想外の褒め言葉に頬がカッと熱くなるのを感じた。心臓がうるさくなる。「い、郁くん、お世辞はやめてよ」なんて顔を手で隠しながら笑って誤魔化すけど、郁くんの表情はいたって真剣で、笑ってなんてなくて。それが余計に私の心臓を大きく鳴らして。

「お世辞なんかじゃない。……ちゃんはかわいいし、綺麗だよ」
「いく、くん」
「ほんとはこんな再会したてな時にいうことじゃないんだけど――……」

――俺、ずっとちゃんのことが好きだったんだよ。

 郁くんは、変わらず真剣な表情で――でもどこか頬を赤くしながら――私の瞳をしっかりと見つめて告げた。顔が燃えるように熱い。きっと、私の頬は林檎のようになっていることだろう。私は、はくはくと口を開閉することしかできなかった。


title 3秒後に死ぬ

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