甘やかに微睡む
ふと、しあわせだなぁ、と感じるときがある。
例えば、一緒に庭の世話をしながら他愛もない言葉を交わすときとか。
例えば、デートの時に指を絡め合わせて、お互いに照れ笑いしながら顔を見合わせる瞬間とか。
例えば、無防備に横で眠っている安らかな顔を見つめているときとか。
睫毛、長いなぁ。
ふと明け方に目を覚ました私は眠る気が起きなくて、横からすやすやと眠る彼の顔をじぃっと見つめる。今更ながら、とんでもなく整った顔だと思う。顔のパーツが整っていて、格好良くて、すごく綺麗。こんなにもうつくしいひとが、私とお付き合いをしているなんて1年前の私に伝えても絶対に信じてもらえないだろう。
彼の顔に垂れかかる髪を耳にかけてあげながら幸せに浸っていると「ん……、」と声を漏らしながら豪さんが身動いだ。
「……あ。すみません、起こしちゃいました?」
「…………さん、おはようございます」
寝起き特有のぼんやりとした瞳が私を捉えればふわりと優しく微笑む。頬を撫でる男らしい手にどきりと心臓が飛び跳ねた。出来る限り平静を装いながら「おはようございます」と短く返す。
「いま何時、ですか……?」
「えーと……、まだ5時半ですね」
起きるにはまだ早すぎる時間だ。だからまだ寝ててもいいですよ、とだけ伝えて一人ベッドから抜け出そうとすると不意に腕を掴まれる。「どこ、いくの」といつもより幾分か低い声で問われ、再び心臓は跳ね上がった。
「え、と。すっかり眠気がどこかに行ってしまったので、お茶でも飲みながら──」
本でも読もうかと。と続けられるはずの言葉は口から出ることはなかった。掴まれていた腕がぐっと引かれたと思えばいつのまにか豪さんの腕の中にいて。目の前にある厚い胸板に嫌でもドキドキと胸の奥が騒ぎ出して、頬が燃えるように熱くなる。
「もう少しだけ、このままで……」
耳元で囁かれ、ぎゅうと強く抱き締められた──と思えば、すぐに頭上からすうすうと寝息が聞こえてきて少し拍子抜けした。寝惚けていただけだとしてもすごく心臓に悪いし勘弁してほしい。だけど、嬉しくて幸せな気持ちになったのも事実で。無意識のうちに表情筋がゆるゆるになってしまう。こんなしあわせな生活がずっとずっと続いていけばいいのに、なんて思いながら私はそっとその背中に腕を回したのだった。