世界が再びきらめいた
幼馴染の涼太くんは、昔からすごくかわいらしい男の子だった。華奢で、髪の毛もふわふわで、しなやかで品がある。女である私よりもずっと女の子らしくて(それを言うと涼太くんは怒るけれど)昔から私が涼太くんを守ってあげなきゃ、という謎の使命感があった。実際、私は小さいころ女の子の中でも喧嘩は強いほうで、涼太くんをバカにしていたクラスメイトの男の子相手に大ゲンカをしたこと(これに関してはすっかり黒歴史だが)だってある。まあ何がいいたいかというとつまりは、昔は涼太くんがお姫様で、私はそれを守る騎士のようなものだったのだ。
「なにしてるの」
「わ、涼太くん。いつのまに」
「今来たとこだよ。にしても気付くのが遅い」
「ご、ごめん……ちょっとぼーっとしてた」
昔の思い出に浸っていると、いつの間にか涼太くんが待ち合わせ場所に来ていたみたいで、ぼうっとしていた私に対し大きくため息をついていた。変装なのか、いつもと違って伊達メガネをしているがそれもよく似合っている。あれからすっかり大人になった涼太くんだけど相変わらず腰は細いし、脚もすらっとしてるしで華奢であることに変わりはなかった。
「ほら、行くよ。コウの出てる映画、見るんでしょ」
さっと私の手を取って歩き出す涼太くん。その手から伝わる骨ばった感触に気付いて、思わずどきりとした。
涼太くんは、ここ数年ですっかり男の子ではなく男の人になってしまっている。そのことに対して私は寂しさからなのかわからないがきゅうっと胸がくるしくなる。心臓を締め付けられて、どくどくと脈がはやくなる感覚。その感情の正体は、未だにちゃんとわかっていない。
△▽△
「なかなか面白かったね。コウくんはかっこよかったし」
「コウが当て馬なのは気に入らないけどね」
「あはは、相変わらずの贔屓ぷり……」
映画が終われば、自然と二人でカフェに入っていた。私はミルクティー、涼太くんはカフェラテ。お互いいつものメニューだ。一口飲めば身体の芯から温まるようで心地いい。
先ほどまで見ていた映画の感想の言い合いから始まって、近況やら最近のお気に入りなど色々話しこんでいく。会うのは割と久しぶりだから話はなかなか尽きない。涼太くんと話すのは嫌いじゃないからこの時間はとても居心地がよかった。ミルクティを手にしてもう一口飲めば、涼太くん越しに見える窓の外に見慣れた顔を見つけて思わず「あ」と声がこぼれた。
「ん?」
「ほら、あれ見て。ケンくん」
「嗚呼、珍しくおすましモードのヤツか」
「うん。なんかケンくんって元気百倍ー!って感じで明るい印象あるけど、ああいうのも似合うんだね。ちょっと意外だけどかっこいいな」
私が指さした先にあった広告は、ケンくんが珍しく化粧品のモデルになった時のやつだった。女性用のルージュを塗って、いつもの笑顔はどこへやらと言いたくなるくらいクールな表情で決めている。
ケンくんもいろんなことに挑戦してがんばってるんだなあ、と広告から視線を涼太くんに戻すとこの一瞬で何が起きたのか、とても不機嫌そうな顔をしていた。
「……涼太くん?」
恐る恐る声をかける。すると涼太くんはその薄い唇を尖らせながら「いつもケンやコウばっかりだよね」とつぶやいた。意図が読み取れず、首をかしげる。
「俺のことは」
「え」
「俺のことは、どうなの」
じっと瞳を見つめられながら問われ、困惑する。どうなのって何が? どういうこと? テンパる私だけど涼太くんはそんなこと露知らずといわんばかりに私のことをじっと見てくるだけだ。ぐるりぐるりと、焦りやら恥ずかしさやら色んな感情が混ぜこぜになって頭はショート寸前になる。
「りょ、うたくんも、かっこいい……よ?」
「本当にそう思ってる?」
「も、もちろん! というか涼太くんが一番かっこいい、と、思う」
「そ。……なら、いい」
そう言ってふ、と笑った涼太くんに、いつものように心臓がくるしくなる。どきどきと心臓がうるさくて、そこでやっと気づいた。
なんだ、わたし、涼太くんのこと、好きだったんだ。
男らしくかっこよくなって、大人になった涼太くんのことが好きだから、ずっと胸がくるしかったり、脈がはやくなったりしたんだ。
あまりに気付くのが遅すぎて、思わず自嘲するように笑ってしまった。
title 3秒後に死ぬ
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