ふたりあわせた頬に融ける

「ふむ、うまいな」
「お口にあったならなによりです」

 お椀からずず、と音を立てながら味噌汁をすするバイパーさんにほっとする。これでマズイとか言われたら立ち直れないところだった。
 今日はバイパーさんに味噌汁を飲んでみたい、と頼まれたので作ってあげた。なんでも、仕事の関係で私の故郷について調べていたら出てきてあまりに美味しそうだったため、一度口にしてみたいと思ったらしい。
 味噌汁の作り方は母から教わっていたため、難なくその願いを叶えてあげられた。ただ、具や味付けは完全に私好みなので、ちゃんとバイパーさんの口に合うか不安だったのだが……問題無さそうで、心底安心した。

「毎日飲んでも飽きないなこの味は」
「まあ、私の故郷では毎朝出るところも少なくないですしね」
「なるほどな……、俺のために毎日味噌汁を飲ませてくれないか?」
「えっ!?」

 その言葉に思わず顔に熱が集まる。きっと私の顔は今ゆでだこのように真っ赤だろう。こ、この人はこの意味を分かっていっているのだろうか。私の故郷では、それはプロポーズを意味するもので。いやいやいや、この風習をバイパーさんが知るわけがない。文字通り、毎日作って欲しかっただけなのかもしれない。うん、そうだ。きっとそうに違いない。私は自分にそう言い聞かせた。

「え、ええっと、私は別にいいですけど……、自分で作り方覚えたほうが早いと思いますよ? バイパーさん料理お上手ですし、私が教えればすぐモノにできると思います」
「いや、お前の味噌汁がいい」
「そ、そんなに私のお味噌汁気に入ってくれたんですか……?」

 プロポーズではないとわかってはいても、そんなに自分の料理を気に入られると少しばかり恥ずかしい。赤く染まっているであろう頬を隠すように顔を俯かせる。すると、バイパーさんはまるで信じられない、とでも言うように「まさか、気付いてないのか?」と言った。え……?

「どういう、意味ですか?」
「言っただろう、俺はお前の故郷について調べたと。……その際に、お前の故郷での求婚の仕方も知ったんだ」
「……え、それ、って、」
「……やはり、直球がいいな」

 好きだ、。俺と結婚してほしい。

 その言葉の意味を、完全に理解するのに数秒要した。理解した後も、信じられなくて、でも真剣な瞳をするバイパーさんに冗談なんかじゃないと分かってしまって。私はより一層赤くなったまま、「不束者ですがよろしくお願いします」と小さな声で告げることしかできなかった。


title リラン

back