深夜のふたりごと
冷凍庫を開け、あ、と声が思わず漏れた。いつもはあるはずのアイスクリームがなくなっていたのだ。昨日、最後の一個を食べたから買っておこうと思っていたのにすっかり忘れてしまった。やってしまったなあ、と頭を軽く掻きながら時計を見上げると21時過ぎを指している。ちょっと遅いけど、買いに行こうかな。スーパーは距離があるけどコンビニなら近いし。そう思い至ったわたしはカバンに財布とスマートフォンだけ入れて、テレビに夢中の陽介に声をかける。
「陽介、わたしちょっと出かけてくるね」
「こんなに時間にか?」
「ん、ちょっとそこのコンビニまで」
「待って、なら俺もついてく」
夜に一人じゃあぶねーだろ、とリモコンでテレビの電源を消していそいそと準備を始める。すぐそこだからいいのに と思う反面、優しいなとちょっと嬉しく思う。プチデートだなんて少しだけ浮かれた。陽介はTシャツにジャージというものすごくラフな格好だけども。
指と指を絡ませた、いわゆる恋人つなぎで家を出る。いつもはちょっと恥ずかしいけど、夜なだけあって人通りが少ないからあまり抵抗はない。
「何買いに行くんだ?」
「アイス。無くなったの忘れてたの」
「そんくれーガマンしろよー。またデブんぞ」
「うっさい陽介のばーか」
他愛もない話をしながら、夜の道路を歩く。車道側は陽介が歩いてくれていた。こういう優しい気遣いをできるあたり、やっぱ出来た彼氏だと思う。思わずにやけた。
コンビニにつくと、私はアイスクリームのコーナーへ一直線。パピコ、しろくま、スーパーカップ、モナカアイス。種類もそこそこあり、どれにしようか迷ってしまう。陽介にどれがいいと思う?と聞いてみたが「自分で決めろよそれくらい」と一蹴されてしまった。冷たい奴め。
結局、わたしはチョコモナカアイス、陽介はスーパーカップのバニラ味と最近話題のレモンティーの味がする水を買った。店員さんに合計金額を言われ、財布を取り出そうとするがその前に1000円札が机上に置かれた。
「1000円お預かりします」
「あっ、ちょっと陽介! わたしも払う!」
「いーって。いつも割り勘だし、たまには奢らせろよ」
それでも納得しない私は自分の分だけでも払おうと財布から小銭を出そうとするが、財布ごと没収され無理矢理カバンの中に仕舞われた。そうこうしているうちに店員さんはお釣りを差し出したのを陽介が受け取る。くそう、やられた。拗ねるように唇を尖らせながら商品の入ったビニール袋を受け取ればそのままコンビニを出ていった。
「なんで奢ってやったのに不機嫌なんだよ」
「別に奢って欲しかったワケじゃないし。私は陽介と対等な立場でいたいの!」
「はいはい、でも俺は彼女の前ではカッコつけたいタイプなの。たまにはいいだろ?」
たまには彼氏の我儘も聞いてくれよ、なんて言われたら私はもう何も言えない。「仕方ないから許してあげる」とどこか上から目線で笑ってやれば、行きと同じようにぎゅっと指先を絡め合った。陽介のぬくもりが伝わってきて、あたたかい気持ちになる。
「ふふ」
「なーに笑ってんだよ」
「いーや?」
幸せだなあ、って。ぽつりと零せば陽介は小さく笑って「そうだな」と返した。
こんな何気ない日常が、永遠に続けばいいのに。
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