!学パロ
じりじりと照り付ける太陽の熱視線がじんわりと体力が奪われていく。教室を出たのはつい数分前だというのに、空調の効いた空気が恋しくて仕方ない。隣を歩く我らが生徒会長――シャルルマーニュも、さすがにこの暑さに参ってるのか少しだけ眉間に皺が寄っていた。頬から垂れる汗が首筋を伝っていく。その様がどうにも色っぽくてすぐに目を逸らした。
どうしてこんな真夏日に太陽の下に駆り出されているのかというと、すべては私の運の悪さから始まる。
一学期のうちに集めておいた生徒アンケートの集計。そのために私たち生徒会は夏休みにも関わらず召集され、黙々と作業をしていた。
生徒会室は古い教室で、クーラーはあるものの効きはあまりよくない。めちゃめちゃ暑い、というわけではないけどどうにもムワッとした感じが抜けない。
その空気にだんだんと嫌気がさしてきたのか、一番にアストルフォが「アイス食べたい!」と騒ぎ出した。
次々賛同していくみんなに「それじゃあみんなで買いに行くか!」とシャルルマーニュは切り出したけれど、なんとなくイマイチな反応。アイスは食べたくてもこの暑さの中外には出たくない。全員中々にワガママであった。
そんなこんなでじゃあジャンケンで負けた人が行こう、という話になり――見事一人負けをした私が、こうして外に出てきた次第である。自分のついてなさに泣いた。私の幸運ステータスはEだったりするのだろうか。
シャルルマーニュは本来ならアストルフォたちとお留守番だったのだが、気を遣って一緒に来てくれた。
……いや、本当は下心も含まれているのかもしれない。
なんていったって、私と彼はいわゆる恋人という関係にあった。自惚れかもしれないけれど、私と一緒にいたくて着いてきてくれた可能性もなくはない。というか、そうだったらいいな、と思っている自分がいる。私だって、シャルルマーニュも一緒にきてくれるということになったとき、心が浮わついてしまったのだから、そう期待してしまうことを許して欲しい。
コンビニまで学校を出て五分もすれば着くというのに、そんな短い間でも一緒に過ごせるだけで浮かれてしまうなんて我ながら現金なものである。好きな人と一緒にいられるのは、たとえどんな環境であろうと嬉しくなってしまうものなのだ。乙女心というのは意外と単純であった。
「はー……本当に暑いね」
「おー……。こりゃ今年一番の暑さじゃねえか?」
手の甲で汗をぬぐう。浮かれはすれどもやっぱりこの暑さはだるさを助長していて、歩みを進める足が自然と遅くなってしまう。だらだらと歩いていてはいつまでたってもコンビニに着かないとはわかっているものの、身体は動かないのだから仕方ない。
不意に、指先が触れ合った。いや、当たってしまったと表現するほうが正しいだろうか。暑い暑いと連呼するわりに私とシャルルマーニュの距離はかなり――正直不自然と言っても良いくらいには――近しかったので当然の現象だった。
私は反射で手を逃がそうとする。しかしそれを射止めるかのようにシャルルマーニュは自然に私の手を摑まえてみせた。じっとりとした感覚を気にも留めず指と指を絡ませてくる。
「しゃ、シャルルマーニュ」
「ん?」
驚いた私はすぐにシャルルマーニュのほうを見上げるけれど、当の本人はなんてことのないように涼し気――いや、汗はとてもかいているのだけれど――にしていた。けれどもその頬は確かに赤らんでいて、ぎゅっと心臓まで掴まれた気分になる。私まで頬に熱が集まってしまって、それを暑さのせいにしてしまいたかった。
絡まった指たちをぎゅう、と握り返す。暑くてだるくて、夏という季節さえも嫌いになってしまいそうなくらいなのに、もう少しだけ温度を分け合いながら隣を歩いていたいと思ってしまうのは、きっと私が恋という病に侵されているからだろう。
そんな私を知ってか知らずか、シャルルマーニュは嬉しそうに破顔した。その笑顔は太陽にも負けていないくらい眩しくて、どうにも愛おしかった。